予防接種を受ける — Epoche B1
場面設定: デリー・サウスデリーの総合病院、午前。問診票照合に厳格な接種室看護師十年プリヤと、出張三日前で四種同時接種を要求する記録曖昧なラジ。 プリヤさん、三日後にナイロビ出張なんです。予防接種を、黄熱病・狂犬病・腸チフス・A型肝炎の四種類、今日、全部お願いします。急いでいます。 ラジ様、承知しました。ただ、四種同時接種は原則として推奨されていません。特に黄熱病は、接種から効力が発生して国際証明として有効になるまでに十日ルールというのがあるんです。三日後の入国時には、検疫上、証明が無効になってしまいます。 え、十日ルール?ネットで調べた時には出てきませんでした。本当ですか。 WHOの黄熱病国際証明の十日ルールは、世界共通です。ケニアでは検疫官が空港で確認しますし、期限未満の場合は不足分を強制接種されるか、入国を拒否される実例もあります。今月、当院でも同様のケースを二件伺いました。 ……知りませんでした。 もう一点、確認させてください。問診票の「過去五年の予防接種履歴」が空白になっています。A型肝炎を過去に接種されている場合、二度目だと抗体過剰で副反応のリスクがあるんです。 ……接種記録は実家で母が管理しています。連絡を取ってから来るべきでした。すみません。 アレルギー欄には「たぶんなし」とご記載ですが、医療上「たぶん」では受理できません。狂犬病ワクチンには卵成分が含まれていて、卵アレルギーで重篤化したケースの報告もあります。 ……今日、四種同時は無理ですね。予防接種というものを、軽く考えすぎていました。 最も安全な選択肢は、旅行を十日延期することです。旅行代理店に変更を相談していただくことをお勧めします。本日は、お母様に接種履歴を、かかりつけ医にアレルギーをご確認いただく、それだけ準備しておいてください。来週、改めて安心して接種を進めましょう。 解説: 「全部今日で」が出国ルール・接種履歴・アレルギーの三重不備で粉砕される本音の漏れ+「急ぎ」への答えが「旅行延期」という皮肉。「予防接種を軽く考えていた」が、海外渡航のリテラシーを一行で表す。